EU競争法違反事例からの教訓:
REACHにおけるSIEFおよびコンソーシアムへの参加に関する警告
【EU競争法違反事例】
2009年11月11日に欧州委員会は、プラスチック添加剤セクターの24社に対してカルテル行為(事業者間で価格、生産計画、生産数量、販売地域などについて競争を回避する協定を結ぶこと)があったとして合計173百万ユーロ(当時約230億円)の制裁金を課しました。
上記の24社は、PVC添加用の熱安定剤に関して価格を協定し、顧客および市場を分割し、競争上重要な情報を交換するなどのカルテル行為を1987年から2000年にかけて幾度となく行ったものです。特筆すべきは、本件に関与したコンサルタントはカルテルのメンバーではなく、PVC添加用の熱安定剤市場の参加者でもなく、従って、このカルテルを実施しそれに従った事業者ではなかったものです。しかし、当該コンサルタントは、カルテル協議を行う毎月の会議を組織し、自社の事務所を提供し、その会議に出席しカルテルを目的とした会議であることを認識していたとの理由から、34.8万ユーロ(当時約4700万円)の制裁金を課せられました。このコンサルタントは、以前、他のカルテルにおいて、カルテルを目的とした会議の開催を企画し、決められた数量割当の監査を行い、どのようにすればカルテルが発覚しないかを助言したとの理由から、やはり制裁金を課せられています。
(Chemical Watch(December 2009/January 2010): Euroean business briefing, Issue 23, p.22 参照)
【上記事例からの教訓】
上記事例からの警告として、以下の教訓を得ることができます。各企業におかれては、REACH対応のSIEFあるいはコンソーシアムでの活動において、注意すべき観点としてご参考にしてください。
(教訓の内容は、外国法共同事業ジョーンズ・デイ 法律事務所 渡邉新矢弁護士監修の下に作成しました。)
- REACH法の下におけるSIEFメンバー、コンソーシアムメンバー、唯一の代理人あるいは第三者コンサルタントは、当該市場における競争事業者であるか否かを問わず、カルテル行為に参加し実施する場合は勿論、カルテル行為を援助し、促進し、助言し、その他の受動的な役割を担ったとしても、即ち、どのような形態であれカルテル行為に加担した場合は、カルテルに参加し実施した競争事業者と同様と判断される。例えば、コンサルタントであっても、ある会議に出席していたところ、出席者の一部が競争法上重要な情報交換をし始めたにもかかわらず、その情報交換行為に明確な反対も退席もせずに黙認するという受動的な参加をした場合でも、EU競争法違反となり高額な制裁金を課せられる可能性がある。
- REACH法の下で情報を交換する各競争事業者、川下ユーザー、コンサルタント、その他の関係者は、その役割に応じて、守秘義務契約を締結する、競争法の下で嫌疑をかけられないよう交換する情報の種類、収集および交換の方法を考える、コンプライアンスを徹底する、SIEFあるいはコンソーシアムに参加する担当者の教育を十分にするなど、個別の事情、場面に応じた対策をする必要がある。因みに、本記事はSIEF、コンソーシアムへ参加する担当者は、技術系の者が多いと考えられ、彼らは法律的な訓練を必ずしも受けておらず、かつREACH法に対応するため情報開示に注力するあまり積極的となり、競争法上重要な情報も開示する可能性があると警告している。このような可能性を回避するため、何が競争法上重要な情報であるかを簡単なリストにまとめて、たとえば、「1.価格情報、2.生産能力情報、3.顧客情報、・・・」のようなリストを作成して担当者へ交付するなどの方策をとる必要がある。
- REACH法の下での業務に係るコンサルタントは、各事業者の製造・輸入数量(tonnage bandで把握した場合を含む)、販売経路・使用情報等の競争上重要な情報を扱うこととなるので、そのような情報の取扱いについて、何が競争法上のリスクかを十分考慮して特定し、競争法違反とならないよう対応する必要がある。例えば、個別の具体的な情報を回避し、匿名なり抽象的な情報として収集するなどの注意が必要である。
以上
【関連情報】
EU化学品規制REACHに係わる独占禁止法対応マニュアル 改訂版 日本化学工業協会 REACH-TF 2010年3月1日 [PDF 194KB]