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弛まぬ化学の挑戦と産学連携の実質化に向けて |
公益社団法人 日本化学会 会長
岩澤 康裕
(電気通信大学燃料電池イノベーション研究センター長・特任教授、東京大学名誉教授) |
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公益社団法人日本化学会の平成23年度重点活動基本方針は16項目にわたるが、産学交流活動の実質化、日化協その他主要化学系企業団体との新たな連携の構築、新規秋季事業(CSJ化学フェスタ)、化学の夢・ロードマップ作成、国際・アジア連携強化、会員増強など産学連携協力を意図し期待したものが多く含まれている。日本化学会は世界有数の化学系学会として、我が国の科学・技術の発信、評価、社会還元、普及・啓発、人材育成、情報提供、国際交流、知財の保護などを通して、わが国の化学者・技術者と持続的社会の発展のために最大限貢献できるよう尽力する表明をした。グローバル大競争時代の今日、わが国のSustainabilityの指標である政治・政策力、経済・産業競争力、科学・技術力、教育力などの強化発展において、政策提言も含めて日本化学工業協会と日本化学会が連携協力することの意義は大変大きい。
資源・エネルギーに乏しく、少子高齢化・食糧・新興再興感染症・災害多発・環境など多くの課題を抱えた我が国が有限の地球上で生き残りをかけ、国際的な大競争時代に勝ち、豊かな持続的社会を構築し、また、先進国の中でプレゼンスを高め国際貢献を果たすことができるのは、世界を先導する科学・技術のお陰といえる。化学は、これら多くの喫緊の国家課題に応えることができる。化学がリードして科学・技術による力強い日本の構築と産業の発展が望まれ、それは21世紀のわが国の新たなプレゼンスを構築する一つの方策と考える。そのためには、化学・技術において世界最先端(No. 1)と多くの優れた分野(多様な頂を持つ連山)を持つことが重要である。また同時に、産学の実質的連携強化により産学の若手人材育成・教育の強化を行うことも求められる。
化学はそれ自身重要なディシプリンとして、一方で多くの分野の発展を支える基盤科学・技術として大きな役割を果たしており、科学技術の発見・発明の約20%は化学の貢献によるとされ、化学は21世紀のCentral Scienceとして、科学・技術による力強い日本の構築と持続的人類社会の発展に貢献できると期待されている(Nature誌 2011年、 p469)。しかし、本当に科学者・技術者或いは国民は化学がセントラルサイエンスと思っているのか?化学は他分野の必須の科学・技術的基盤だと認められているのか?化学は物質観をもち「ものをつくれる」唯一の学問だと考えられているのか?残念ながらどれもNOと言わざるを得ない。多くの他の分野では化学を自分達の分野での部品の科学・技術と思い、また必要に応じ買える科学技術だと思うだけで化学・化学技術をセントラルサイエンスとか必須の科学・技術的基盤だとは思ってはいないし、「化学物質」という言葉は環境汚染毒物質の枕詞として長いこと使われ、政治家や国民のいう「ものづくり」とは自動車、ロボット、スマートフォン、TV、橋・建築設計などであり、化学界の中での通念とは乖離している。その状況下で化学の価値と存在感をどのように示すかが問われている。産学が連携協力して、持続可能な社会に向けた新たな化学・技術の創成と多様な課題への弛まぬ化学の挑戦、それらを支え予測困難な問題にも対応できる人材の育成に、最大限の努力と責務を共有する必要がある。
先端科学・先進技術は、長い進化の過程で人間だけが獲得した「心の文化」といえる知的活動である。その中心的基盤として化学・化学技術があり、化学の一層の振興と社会への幅広い普及・啓発を図り、我が国の科学・技術が一層振興し、持続可能な社会を支える人材の育成と増進が図られ、我が国の力強い輝く将来が構築されることを願う。 |
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