目次
RCを知っていますか?
発行にあたって
環境・安全に関する日化協基本方針
報告書2011のトピックス
RC委員会の運営
RC委員会活動計画と実施状況
環境保全(省エネルギー・地球温暖化防止対策)
環境保全(産業廃棄物削減)
環境保全(化学物質の排出削減)
保安防災
労働安全衛生(労働災害防止に向けた取り組み)
労働安全衛生(安全表彰・シンポジウム)
物流安全
環境・保安投資
会員のマネジメントシステム
化学品・製品安全
会員の社会対話
RC委員会の活動(社会との対話)
会員交流
国際活動
RC検証
RCに期待する
JRCC協議会会員
注文書

 
 
 
製品に関する情報提供
製品安全データシート(MSDS)の整備・配付状況
 MSDSは、化学製品による事故の未然防止を目的に供給事業者が取り扱い事業者に提供する説明書のことで、化学製品を安全に取り扱うために必要な情報(人や環境に対する有害性、引火や爆発性などの性質、取り扱い上の注意、緊急時の措置など)が記載されています。
 MSDSの提供が義務化されている物質は、PRTR法、労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法により定められていますが、会員へのアンケート調査の結果、85社中80社がレスポンシブル・ケアやプロダクト・スチュワードシップの理念に基づき法的要求のない物質(製品)についても自主的に発行し、顧客に提供しています。
 自社の化学製品が客先でどのように使用・加工され、最終的にどのような製品となって消費者に届けられるかなどを把握することもレスポンシブル・ケアの観点から重要なことであり、85社中70社が客先での用途を80%以上把握しています。
 
化学物質事前安全性評価
 化学物質の安全性(爆発、火災、急性・慢性毒性など)を特定し、取り扱い者の健康および環境への影響について評価する事前安全性評価は新規物質の開発・製造・販売の場合だけでなく既存物質に対しても新たに導入する場合や製造・輸送・使用・廃棄方法の改変時に実施しています。これはリスクの低減対策としてだけではなく、緊急時の対応にも活用でき、アンケートに回答した会員の98%が事前評価基準を保有しています。
 
 
会員の自己評価
化学品・製品安全
方針、計画、コミュニケーション、点検監視など9項目の自己評価項目の総合評価
「十分満足」「ほぼ満足」が85%以上で維持できています。リスク管理計画、運用管理における海外への技術移転・支援を問う項目で「不満足」「やや不満足」の比率が高く見られました。
 
化学物質の評価、有害・安全性情報提供の推進
 私たちの生活は多くの化学物質によって支えられており、化学物質の恩恵を受けて生活を送っています。一方で、化学物質は取り扱いを誤ると人体や環境を脅かすような何らかの有害性を持っています。2010年度に実施した内閣府の「身近にある化学物質に関する世論調査」によると69.7%の人が化学物質は「危ないもの」という印象を持っています。その理由は「化学物質は非常に種類が多く、中には有害なものがある」、「事業者がきちんと化学物質の管理を行っているか、わからない」、物品に表示された化学物質に関する情報については「見えにくい」、「わかりにくい」、「足りない」というものでした。
 このような状況は消費の過程だけでなく製造、加工、流通等の各過程を通じ、また世界共通のものであり、化学物質の持つ危険性を十分に評価し、それを使用者にわかりやすく正確に伝えようという大きな流れの中で、化学物質のリスク(人の健康、環境への影響)を2020年までに最小化するための取り組みが全世界で進められています。
 
 化学物質のリスクを削減し、地球環境の保護と生活の利便性の向上につながる開発とを両立させていこうという考え方が2002年のヨハネスブルグ宣言(持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD))で示され、さらに2003年にGHS国連勧告が採択、2006年には国際的な化学物質の管理のための戦略的アプローチ(SAICM)が採択されました。その後、1)リスク評価に基づいた使用規制(化学品管理条例)と、 2)有害性情報の伝達(GHS「国際的な化学品調和分類システム」制度の導入)の制度が各国で導入されています。これらの制度では活動の主体は製品を供給している企業であり、各企業は化学物質を適切に管理し、使用者に安全に使用してもらう取り組みを加速しています。2020年に向けて世界が協調した取り組みが展開される中で、企業、産業界の責任が大きくなっています。
 化学物質が新たに市場に供給される際には、化学物質の持つ危険有害性とその程度、および環境や人への曝露量をきちんと調査し、使用量や使用場面を制限するようになります。既に市場に出ている物質についても、改めてその有害性と曝露量を調査して、その有害性に応じた使用量や使用場面を見直すように各国で化学物質管理法が改正されています。欧州では2007年にREACH、日本では2010年に改正化審法、中国では2010年に新化学物質管理法などが施行され、米国では2012年に改正有害物質規制法(TSCA)が施行予定の他、韓国、台湾、東南アジアでも同様の取り組みが実施されようとしています。
 
 新しい取り組みは、リスク評価に基づいて化学物質の管理を実施するもので、化学物質のリスクは危険有害性の高さと実際に化学物質と接触する機会(曝露量)で評価されます。さらに、取り扱う環境などが考慮されて安全な使用方法が決められ、その情報が使用者に伝えられることになります。
 
 有害性および安全性情報の伝達に関しては、各国でまちまちであったMSDSやラベルの記載方法を全世界で共通な表示にしようという国連の提案「国際的な化学品調和分類システム(GHS)」に各国が同意して、化学物質が持つ危険有害性情報を使用者へ積極的に伝える取り組みが行われています。GHSは、日本が2007年に導入したのを皮切りに台湾、韓国、中国、欧州ですでに導入されていて、2013年以降には米国、東南アジアでも導入される見込みです。
 
 
 このように化学物質管理は国際的規模でリスク評価をベースとした管理とプロダクト・スチュワードシップ※に基づいたサプライチェーン全体での管理の取り組みが進められており、各国産業界も化学物質の安全管理への自主的な具体的取り組みを本格化しつつあります。こうした取り組みが実施されることで、安全な使用法の提供、使用場面の制限、有害性の小さい物質への置き換えが進むなど、化学物質の人の健康や環境への影響が低減されるようになります。日化協ではこのような動きに伴う諸課題に対し会員への支援のために様々な活動を行っています。
 
※プロダクト・スチュワートシップ(PS):Product Stewardship(製品の総合安全管理)
  「製品の製造者がその製品のライフサイクルにおいて健康、使用上の安全、環境の保全などにサプライチェーンを通じて事業者として責任を負う」という理念を実現する活動
 
 
化学品規制の動向とその対応
化審法改正:改正化審法は2010年4月に第1段階、2011年4月に第2段階が施行されました。第1段階施行として良分解性物質からの監視化学物質指定や低懸念ポリマー確認制度等が運用開始されました。また、第2段階施行として一般化学物質の製造・輸入量届出が開始されました。日化協はこれらの施策が円滑に事業者に定着するために、スクリーニング・リスク評価手法の開発、優先評価化学物質選定に係わる制度設計、運用の仕組みに対して、化学物質総合管理研究会を通じた経済産業省事務局との協議、スクリーニング・リスク評価手法検討の審議会への委員としての参画等を通じて、産業界の意見を反映させました。
 
GHS:国内のGHSについては安衛法改正に向けた対象物質の見直しや作業場GHS表示導入が議論され、GHS分類に該当する化学物質全てに対しMSDS提供とラベル表示を行う方向性が定められました。化管法においても同様にGHS制度の見直しが行われている中、日化協は、施行時期の統一、移行期間の設置、事業者支援策の強化等を提言しました。
 
REACH1、欧州規制:REACHについては2010年11月30日の第1次登録期限までに1000トン以上/年、CMR2等の約3400の既存物質(新規物質も含めると約4300)が登録申請されました。また、GHS欧州版のCLP3により、2010年12月から物質に関する分類表示の義務が発生しており、2011年1月3日の分類表示届出期限までに約311万件(約11万物質)がECHAに届出されました。日化協は会員支援のために、REACHウェブサイト等、各種媒体による最新情報の提供と共に、登録、届出に係る諸課題に取り組んでいます。
 
米国TSCA4:米国有害物質規制法TSCA の改正については2010年4月に上院・下院で法案が提出されましたが、中間選挙による政局変動等があり、第111期議会(2009年?2010年)では成立せず廃案となりました。第112期議会(2011年〜2012年)で再提出される見込みとなっています。一方、現行のTSCA運用強化として、既存化学物質規制のアクションプランやインベントリー更新報告規則修正案等も進んでいます。日化協では、これらの動向を把握し、逐次、会員に情報提供しました。
 
アジア各国規制:アジア各国も中国の新化学物質環境管理弁法改正、台湾の労工安全衛生法改正をはじめとして、マレーシア等各国で新規の化学品法を整備中です。一方、経済産業省は新成長戦略に基づき、「アジアン・サステイナブル・ケミカル・セーフティープラン」として、アジア各国に対し日本と調和した化学物質管理制度の整備を支援しようとしています。このような動きに対し、日化協では経済産業省化学物質管理課と「アジア化学物質管理研究会」を立ち上げると共に、アセアン各国の化学品管理実態について現地調査を実施し、政策に産業界の考えを反映させるよう努めています。
 
ICCA 活動への参画と推進
 ICCA では、2010年6月にリスクアセスメントのガイダンスを策定・公表、10月には情報公開と共有のためのIT ポータルを構築・公開しました。このIT ポータルには、すでに一部日本企業を含む世界の主要企業により、1000件以上の安全性要約書が登録、公開されています。国内でのGPS/JIPS の推進については、2010年12月に日化協によりJIPSリスクアセスメントガイダンスが作成されました。同時にレスポンシブル・ケア委員会によりJIPSプロダクト・スチュワードシップ (PS) ガイダンスが作成されました。11 月にはGPS/JIPS推進部会と関連のWG を設置し、本格的な取り組みを開始しました。また、JIPSの情報公開および活動支援を目指し、日本でのITポータル(GPS/JIPSポータル5)構築を開始しました。
 
 
LRI6活動
 日化協では、5つの分野(生態(環境)毒性、神経毒性、発がん、免疫、リスク評価の精緻化)において、ヒトや環境に対する化学物質の影響に関する研究を支援しています。2010年度は、LRI活動の10周年を迎え、8月に経団連会館において、国内外の産官学から約300名の専門家を招聘し盛大な記念国際シンポジウムを実施し、10年間の成果と海外の最先端の研究動向を紹介しました。また、新たな10年に向け、今後のあり方についての検討に着手しました。
 
国際機関への対応
OECD:2010年11月に開催された第46 回OECD化学品・環境合同委員会の結果を受けて、日化協では動物試験に配慮した新たな試験法の開発、テストガイドライン、ナノマテリアル、子供の健康影響等の化学物質に関する喫緊の課題解決に向けて、情報収集と対応活動を実施しています。具体的にはOECDテストガイドライン改訂作業では業界としての科学的検証を行い、これにより発達神経毒性、発達免疫毒性のオプション化が図られました。また、環境省「子供の健康と環境に関する全国調査」とその対応に備えバイオモニタリングQ&A集の改訂版を作成しました。
 
国連関係 (UNEP7/SAICM8への対応):2012年に開催予定のRio+209は1992年のRio EarthSummitと2002年のWSSD10後の進捗状況をレビューし、今後の課題の対策を検討することを目的としています。また、Rio+20に続き、その3ヵ月後にはICCM-3の開催が予定されており、ICCM?2で決議された4件の懸念事項(Emerging PolicyIssues)が重要な課題となり、SAICMより厳しい国際的な政策枠組み、または条約を求める提案が懸念されています。ICCAはRio+20PlanningGroupを設置してRio+20とICCM?3の対応を検討することにしており、日化協も積極的に参画してICCAとの連携を図っていくこととしています。
 
ユーザー対応
 化学物質管理はリスク評価に基づいた使用規制へと移行しつつあり、顧客・消費者を含めたサプライチェーンでの管理が求められています。日化協ではサプライチェーンにおける協力関係を密にして化学物質管理の適正な推進を図る努力をしています。例えば、日本自動車工業会の物質リスト検討WGや日本自動車部品工業会の化学物質規制対応分科会に委員を派遣しています。さらに、自動車工業界の化学物質自主管理のための国際的組織であるGASG11での活動にも参加し、GADSL12の維持、管理や国際的な規制動向に関する情報交換およびそれらへの迅速な対応を図る等、化学産業として中心的な活動を行っています。また、電機・電子工業界ともアーティクルマネジメント協議会を中心に協力関係を維持しています。
 
略語説明
1REACH: Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals(化学品の登録、評価、認可及び制限に関する規則)
2CMR: Carcinogenic Mutagenic or Toxic to Reproduction(発がん性、変異原性、生殖毒性)
3CLP: Regulation on Classification, Labeling and Packaging of substances and mixtures
4TSCA: Toxic Substances Control Act(米国の有害物質規制法)
5GPS/JIPS ポータル: JIPS のプログラムを支援するための、日化協が構築するインターネット上の窓口(ポータル)。ここからJIPS に関するまとまった情報を得ることができる。
6LRI: Long-range Research Initiative
7UNEP: United Nations Environment Programme(国連環境計画)
8SAICM: Strategic Approach to International Chemicals Management(国際的化学物質管理のための戦略的アプローチ)
9Rio +20: 通称名。正式名はUnited Nations Conference on Sustainable Development 1992 年に開催されたリオ地球サミットの後継会議であり、この20 年間の取り組みの評価と今後の課題の検討を行う会議
10WSSD: World Summit on Sustainable Development(持続可能な開発に関する世界サミット)
11GASG: Global Automotive Stakeholders Group
13GADSL: Global Automotive Declarable Substance List